スネルにぞっこん
力を惜しみ、毎年のサイヤング賞を
ドジャースのブレーク・スネル投手が日本時間8月24日の対パイレーツ戦に先発し2安打無失点と好投、それもしかし例によって不思議な(ポンコツ改め)監督によって、4-0とリードがありながら6回までで打ち切られたのだったが、この日に限っては幸いその後の投手もしっかりやってくれて、めでたく2勝目となった。

5月に左ひじの手術後、8月11日に復帰して以来、彼の投球を見てきたが、この日は多少モタモタして歯がゆい場面はあったものの、一番の出来だったように思えた。いやそれどころか、私は初めて真のスネルを発見したのであった。いまになって?
去年ドジャースに加わってから当然ながらずっとスネルの投球を見てきているのに、私にとってはグラスナウやシーアン、カーショーらドジャースの、先発としてはまだ未完成だったり、逆に盛りを過ぎているなど、やや力不足の感のある投手陣の一人に過ぎなかった。今調べると、ポストシーズンでも登板しているが、ブルージェイズとのWシリーズでは、第1戦と第5戦に登板したものの2敗して、一人で3勝を挙げた山本と対照的な成績になっている。速球とブレーキ鋭いカーブが武器だというのは分るが、それでも打ちこまれ易いという印象があるぐらいで、殆ど意識されてこなかった。
そして、8月24日。私にはその程度の投手だったスネルの投球を見ている中、スネル像は豹変していた。打者を寄せ付けぬ圧倒的速球投手として、私の前に立ち現れてきたのだった。これまでと大して変わったところもあるはずもないのに、どうして! 何がすごいと言って、その4シームの迫力、力強さに魅せられてしまったのだったろう。
この日に限って、どうしたというのか。自分の目が今まで節穴で、その凄さが分からなかっただけなのか。それとも、スネルがこれまでにない体調で、フォームからなにからみな素晴らしい切れで、球速だってこれまでで一番の特別の速度だったのか。
成績だけから言うと、去年5勝、今年3勝。ポストシーズンでのことも加えると、全く山本の足元にも及ばない数字なのであるが、山本の投球に今一つ酔えない、物足りなさを覚える者には、その投球スタイルが、痛快と映ったのに違いない。とりわけ最後、無駄のない、体全体を実に巧みに使った力感溢れるフォームから投げ込まれる高め速球によって、バットに空を切らせる瞬間の爽快さ。ねじ伏せる、という言葉がこんな時必ず使われるが、まさにそう、どんな強打者でも思わず手が出てしまう、かすりもしないでズドンとくるストレートなのである。それからずっと気をつけて見てきたが、俗に釣り球と呼ばれるこの球を冷静に見極め、平然と見逃した打者は、まだ見ていない。この球には先ず打者が参ってしまうわけだが、怪物と言われるブルワーズの ジェーコブ・ミジオロウスキー投手の170k近い速球よりも、恐らくはその投球フォームのせいもあるかと思うが、よっぽど私は参ってしまったというわけである
それ程のピッチングを披露しながらしかし試合後、スネルは強い反省の言葉を口にした。その時のインタビューを日刊スポーツとTHE DIGESTの2社が伝えているが、多少ニュアンスの違う処があるもののほぼ同じ内容。彼の反省は、私が歯がゆくて、ブツブツ不満をを口にしながら観ていた部分と一致しており、なんでここで四球なんだ! という自分への強い怒りである。「特に問題視したのが、3回、4回、5回といずれも2死を取った後、走者なしから許した3つの四球だった。(DIGEST)」どうしてそんなことになってしまったのか。彼によると、「アウトを取ることよりも、三振を取りにいこうとしてしまっている(日刊スポーツ)」からだった。
こうまで自分に厳しいわけは、彼のこれまでを辿ると自然、理解されてくるような気もする。私を一気に大ファンに変えた程のストレートを持ちながら成績が上がらない訳はなく、レイズにいたメジャー3年目の2018年、21勝5敗防御率1.89という驚異的な成績を残して、サイヤング賞に輝いている。ところが翌年以降は6勝、4勝と急失速し、再びサイヤング賞を取った23年(パドレス)でも14勝どまり。年平均にすると7勝にも満たないていたらくで今日までの8年を過ごしてきているのだ。 研究され尽くした? いや、速球一つを取ってみても、研究されて打たれるようなものではなく、これは、或いは大谷選手がいま直面していると思われる酷使からくる、フィジカル面のコンディション不良によるものではないかということが、先ず考えられる。21勝したからといって、そんなに長引くものなの?! という疑問は当然だろう。日本での、稲尾、杉浦、権藤らの身震いが出る程の投手酷使を知る人であれば、その程度でと、笑われるに違いない。そうなのだが、比較したって始まらない、芯が弱い、としか言いようがないが、持っているものの素晴らしさを知った上でこの履歴を見るに、スネルは多くのシーズン、体調不良に苦しんできた、と見た方が真実に近いだろう。今回の試合後のインタビューからもそれは、窺える。「調子は良いし、ボールをしっかりコントロールできる。正直、怠慢だった。球数をかけて三振を取りに行ってしまった(DIGEST)」
自分のした失敗に対照させて、自分の調子に触れる。わざわざ自分でコンディションがとてもいい、と強調しているわけである。普通に考えれば、そこ迄立ち入って自分のことを言うか、となる。それをわざわざ言うところに、スネル投手のこれ迄の苦難が顕れている気がするのである。
それだけに彼は、この調子を浪費したくないという思いが強く働くのだろう、ついつい出してしまう無駄な四球に厳しい目を向ける。その原因がなにであるか、すなわち三振への執着が元凶であるということを、驚くほどあけすけに語っているのであるが、特に速球が武器の投手で、これへのこだわりのない投手があるだろうか。速い球で、また変化の鋭い球でキリキリ舞させて、バッタバッタと打ち取る。見ている方も、痛快! あって上等と思えるのだが、時に躓きの源にもなるらしい。スネルは「球数をかけて三振を取りに――」と自分を責めている。これはつまり、先の当コラム「由伸と九里、遊び心に躍る」でもふれた、「三振の山を築こうと狙えば、3アウト取るのに最低でも9球を要する」ということか? いやいや、実際はそんなものではなく、先ずは2ストライクと追い込む必要があり、もう最初から切り札としている剛速球でゆくか、打たれないコースに苦労して(ボールとなることも多い)ストライク、ストライクと行くか。そうしてすぐに勝負に行ってもいいが、ここは慎重に、1つ、いや時に2つくらい遊び球もはさんで、そこからようやく料理にかかる、というわけで、手間がかかって大変だった、挙句四球になった。バカげている! という自己嫌悪である。今回のように自己嫌悪くらいで済めばいいが、2アウトからの暗転、四球を連発しては、真ん中に絞って狙い打ちされ大量失点につながる、地獄にはまることもあり得る。三振にこだわったが為の悪夢。その怖さをスネルは知っており、或いはスネルには、これが自分の宿痾で、21勝を挙げた以降の低迷も、体調の問題もさることながら、ここに主因があると思っているのかもしれない。それがなかなか克服できない。
このインタビューで彼は、その克服につながることもはっきり言っている、すなわち「初球でストライクを取って、変化球をストライクゾーンに入れなければならない(DIGEST)」。勿論「初球でストライク」とて簡単なことではないが、ダメで元々とヤマをかけて思い切り振ってくる「初球打ち」に遭わないように、打者の特性、雰囲気を読んで球種を選び、それが出来たなら、変化球で行く、「ストライクゾーンに」。これは早い話、ど真ん中と言っているに等しい。ど真ん中でも、いいか。ど真ん中でも、いい。来た!しめたと喜んで打者は振りにいく、するとバットが球に触れようとする瞬間には、もうその球は芯を外れていて、ボテボテのゴロになる、というわけである。するとこれは、打たせて取る投法になってないか。スネルの言っていることは、「打たせて取るピッチングをすべきだった」に他ならないのだと解釈できる。そうしてコーナーなんかに拘らず、ど真ん中でもいいなら、気が楽だ。思い切り腕を振って投げるなら、変化も一層鋭く、捉え切れないものになる? あれれ、それで空振りだと、また次投げないといけない。挙句又空振りで、三振されてしまった。狙わないのに三振なら、まあいいとするか。
これからスネルには、この打たせて取るピッチングを自分のものとして貰って、省エネで多くの登板をこなして行って貰いたいものである。しかし、場合によっては、9回裏、ノーアウト満塁というピンチ、同点で1点もやれないという時に、打たせてとるはダメである。打ち取った筈が内野安打になるかもしれず、ポテンヒットになる恐れもある、また味方がエラー、という場合だってある。そんな時、三者連続三振をとれるのが、スネルの圧巻の4シームではないか。打たせてとる老獪なピッチングに加え、有無を言わさぬねじ伏せるピッチング。この2つが揃って快進撃できないわけはない。もう一度20勝は無理でも、毎年15勝以上をコンスタントに上げて行って貰って、三度目、四度目のサイヤング賞受賞となるよう、心から願うものである。
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