古食記 

酷食ファイル1 失敗しない温泉卵の作り方

古食(コショク)――古い時代の食物・食事を指すのではなく、字の通り、古い、つまり時間の経ったもの、当然、変色・変質、腐敗したりが避けられなくなったものを敢えて食してみる、という全く先が見えぬ暗闇を行くような、決して人には勧められぬ危険な行為を指す。古食記とは、その命がけの記録に他ならない。

注意:良い子のみなさんは、危ないので絶対に真似をしないでください。

 2026年3月17日――こうして面倒でもいちいち日付を記すのは、賞味期限などとの関係で、一体どれだけの日数が経過していたものかはっきり知っておく必要があるからである――おやつに飢えた私は、買いに行くのも面倒と、久しぶりにドーナッツをホットケーキミックスを使って作ることにした。

 先ずステンのボールに卵を割り入れ――オーッとっと、底に落ちたのを見るに、これがなんということか、調理済み、もう茹でてほぼ半熟状態になったようにも見えるものが出てきているではないか。

 誰だって眼を疑うだろう、だって、生卵を割って出てくるのは、当然生卵であって、加熱した卵であってはならないからである。こんなこと、言うまでもない。何かの間違い、と確信した私は、もう1個、床に置いた卵パックから取りだし、今度は別の、小皿に割り入れてみた。するとどうだろう、またしても半熟状態の、それも程よい程度の半熟を誇る、例の温泉卵そのものが、皿の上に乗っかっているではないか。

 うーん! 私はこの寒い時期ゆえ、敢えて10個入り玉子パックを冷蔵庫にしまわず、台所のテーブル下に置いていたのだった。貧乏家の室温からして、冷蔵庫と同じだったと言えるのではないか。とはいえ、その賞味期限を見て、我ながら驚いた。

26.01.24 計算してみる、すると、52日前に期限は切れているのである。それなら、どうかなってない方がおかしい。どろどろに腐敗してたって、文句は言えない。でもしかし、なんかの匂いがする、ということもない。それでもこれはもう、捨てるしかないのか。

 ここでまた私にあくなき古食への探求心、別名貧乏性が顔を出した。捨ててなるものか、茹でてみよう、というわけで残りの中から3個、小鍋に入れて湯を充たし、火にかけた。そして、待つこと5分余り、一気に水で冷やす。殻を剥いてみた。普通みたい。食べてみた。ごく普通。 

何だこれは! 腐っていたのでは、なかったのか。では、どうなっちゃっていたのか。

 研究者ではないので、はっきりしたことなど言える筈もないが、水分がなくなり、干からびた結果が、過熱しての変化と同じ見かけになってしまったのではないだろうか。

 一体卵は、冷蔵庫にしまっておいたとして、産卵後、どのくらい持つものなのか。季節により違うみたいだが、冬なら、57日以内という研究もあるらしい。日本では、パック詰めして大体2週間後を、賞味期限として刻印しているそうな。そうすると、この卵の場合、産み落とされてから14日+52日→66日も経っている――なんと恐ろしい話ではないか。しかも冬とは申せ、冷蔵庫外に、ほぼ放置されていたのである。腐敗迄行かずとも、色、におい、味、どれかおかしくなっていて当然ではないか。それがどうも、違うみたいなのだが……。

 一体なんだ、と私はなお首をひねっていた。ただ乾燥するだけで、温泉卵になる筈がない。これは何かあると。すぐに思いついた、実は余りに今年は冷え込むので、台所にファンヒーターを持ち込み、皿洗いする時など、1時間近く、稼働させていたのだった。放置された卵パックは、丁度その前に置かれていたのだが、位置が低過ぎればあの吐き出される熱風の直撃は受けてない筈である、しかし、適度に離れていれば……ある程度当ることはあり得る!

 そうなのだ、この温泉卵は、ファンヒーターの熱風を1時間、それも2度、3度と浴び続けて出来上がったものなのだ。鍋で茹でられるより、よっぽどやさしい火なもので、それであんなに見事な温泉卵になったのに違いない。そうなると……。ネットには、温泉卵の確実な作り方があふれている。

 これこそが、究極の「失敗しない温泉卵の作り方」ではないか、しっかりと世に発信したい。できれば産み落とされて2ケ月以上経った危険な代物ではなく、新鮮な卵を用いて。

是非、古食などなさらぬ、品格あるご家庭、エアコンよりは、ファンヒーターの方を好んで使われるという方にお勧めしたいのである。

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