守りはどうなる、無防備ニッポン
去る12月22日、日本経済新聞に景気のいい話が載りました。まずはその見出し。
ロボ向けAI、官民で開発 ソフトバンクなど新会社構想 経産省、1兆円支援
記事内容から、大事な点を要約してお伝えすると、次のようになります。
国産AI開発に向け、来年春にもソフトバンクが中心になって新会社を設立。ロボットや機械をAIで制御する「フィジカルAI」に欠かせない基盤モデルを国内勢で賄おうという構想。汎用性のあるモデルを開発した上で、民間企業の需要に合わせて応用することにより、投資規模に見合うだけの利用料が得られると踏んでいる。
経産省がこれをバックアップするというのですが、その額、実に5年間で1兆円規模になるのだというのですから太っ腹な話です。
工業立国日本にとって、強敵ひしめく先端分野で後れを取ることは、国民はともかく、政・官・財界にとっては許しがたいこと。明治の昔から、欧米に追い付き、追い越せでやってきていれば、産業が興って公害が出ても、企業保護が第一とされてきた。その日本より更に遅れて後を追ってきた隣国が今、あらゆるところに公金を投入して国丸抱えで先端分野の育成を図るなら、負けてはいられない。とりわけAIの分野。その一刻も無駄にできないような競争の厳しい現実を日経の記事で見てみます。
日本が出遅れれば、製造業などの現場に集積している産業データを米中など海外勢に吸い取られかねないとの危機感がある。
それにしたって1兆円とは、破格の保護政策ではないか、と唸りたくなりますが、24日付の同じく日経新聞によると、19年から23年迄の国別の凡そのAI関連投資額は、米国が50兆円、中国が20兆円なのに対し、日本が1.5兆円というのですから、ため息が出ます。日本の出遅れは明らかで、1国民としても負けてなどいられないと思うものの、なんとお金が要るものか。それでもやはり工業国として劣後し、得点できないような国になって貰っても困る、せめてAIでも得意分野である産業用ロボ向けでは、WBCで優勝したように、またクルマ産業で優位を保っているように、世界制覇と行きたいところであります。

敗戦投手のドジャースのタナー・スコットを見つめるデーブ・ロバーツ監督【写真:荒川祐史】
しかしテコ入れということでこの際考えるべきは、野球では守りも大事、というか、守りの方がはるかに肝心だということ。幾ら派手派手しい攻撃、満塁ホームランなどでリードしても、投手力など守りが全くレベル以下で、あっけなく大量点を献上し続けるなら、とうていチームとしての勝ちは望めない。
同様、日本が産業の先端分野で勝ちを収めたところで、その日が近いともされていた南海トラフ巨大地震がきてしまい、時間があったにも拘らず、実効性ある防止策を講じてなかったもので、津波被害が亡国的な迄に甚大化。その対策費捻出に追われる中、気がつけば財政破綻の見方噴出に国債、円がたたき売られ、これこそ恐れていた経済破滅、第二の敗戦ともいうべき事態を迎える……。
ちょっと待て、亡国的なまでに甚大化? ――まさか! 大げさに言わないでくれ、とお叱りを受けそうですが、当ブログ5月の「意識革命、いまこそ!」でもご紹介しましたように、内閣府が3月末に公表した、南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの手になる報告書だと、この地震による死者数は、約30万人、全壊焼失棟数約235万棟、避難者数1230万人、そして国としての損失(経済被害)が、国家予算の2倍強の270兆3000億円というのですから、私の形容も、あながち大げさだとは言えないのではと思われます。
しかし、問題はこれから先です。そのような、そら恐ろしいような被害が予想されても、今後それを確実に防ぐ対策が用意され、各自治体で迅速に実行に移されるなら、何も心配は要らない筈。
その肝心の対策、――詳しくは「意識革命、いまこそ!」の方をご覧いただきたいのですが――とりわけ重大事と思われるのは、この度「新たな知見に基づいて地盤テータや地形データの更新を行った」ところ、その後整備された巨大防潮堤すら破壊されるとなったという点。そうなると、ハード面での無力化は避けられず、10年前の被害予想からどれほども変わらない死者数(30万人)他の数字となってしまった、というわけです。
衝撃の更新結果、数字が出てきたと思うのですが、それで対策をどう考えるのか。
報告書は、訴えます。この上はもう、住民各位が日頃から行政に頼る気持ちをなくし、自ら大災害に立ち向かい、自分の命は自らが守る気持ちを醸成して欲しいと。そして、住民においては、津波等からの、いち早い避難が必要不可欠なのだと説いておられるわけなのです。
それって、対策って、言えるの? ……もっともな疑問です。
知性豊かな先生方が集結されて成った策にしては、戦中の国民への押しつけを想起させて、またあの勇ましい人が好きな精神論、「竹やりでB₋29に向かえ!」が復活したかのような錯覚すら覚えます。
この度は、竹やりの代わりに、自らの足、健脚で闘え、というわけなのですが、これがなかなか。「もうつっかけでもなんでも履いて、飛び出せって? おらはいいけど、膝の悪いバアさんとか、赤ん坊を抱える母親とか、身体障害者は、どうなるんだ?」
避難タワーというのも、土地代もだと、あれで1基4億円というのも珍しくなく、国の補助が大きいことから右に倣えで盛んに整備されているようなのですが、中には、とてもあんなところまで走れない、高いところには登れない、と今から諦めを口にする高齢住民地区も出てきていると聞きます。もっともな訴えかと思われます。逆にまた、二度逃げは不可能であれば、その高さ(10m以下が殆ど)で十分なのか、という指摘もあります、もっと高く登っておかないと、安心じゃない?
そのように体力勝負みたいなことになっているのですが、津波まで間があった東日本大震災ですら2万人近い方が犠牲になられた。それから言うなら、健常な人で半時間の猶予が与えられたとしても、津波から逃げ遂せることは容易ではない、ということになります。まして南海トラフ地震では震源が陸から近く、地震即津波と思わなければならない。地震後すぐ来る第一波の30cm程度のものでも人の自由を奪い、避難を難しくする、1mなら殆どの人が亡くなる。もう逃げること自体が端から不可能という予測も成り立ちます。
これは、私だけが言っていることではありません。少し津波に詳しい人なら誰でも知っていること、津波の真実です。それでも、「皆さん早く逃げて、タワーへ急いで、階段を駆けあがって」とやっているのは、地球の方が回っていると分ったのに、未だ太陽の方が回っているとした方が通りがいいので、そのままの絵本を作って売っているようなもの。
そのような気休め同然の指導をしても、結局、その日がくれば、悪夢と化す。そんな子供だましはやめて、逃げないで助かる方法を考えましょう。
となれば、もうお判り、至極簡単な理屈なのですが、津波に耐える建物(ビル)に住めば良い。それは疾うに開発されているのです。当欄で幾度もご紹介しています「アーチシェルター」。ゼネコンの一角、清水建設が2012年に発表しました。その記事を読んで私などは、これこそ待ち望んでいたもの、と多くの人が気づき、被災地に続々建てられてゆくものと期待したのですが、見事外れました。少し耐震、耐浪に備えを強固にした関係で、通常のビルよりは建築費が高くなっていますが、それは、多くの命が助かり、家を喪わずに済む、事業も継続できる(基本、アーチシェルターはオフィスビル)などの、貴重この上ないメリットを考えますと、例え倍の費用だとしても、安いものだという見方もできます。更にはこのビル、20m級の高さの津波にも耐えるというのですから、もはや防潮堤建設費も不要、かさ上げ費用も要らない、となります。巨費が節約できるわけで、そうなるともうとんでもない、超のつく割安ビルではありませんか。それでも、話がうますぎる、やっぱり建築費が高いからやめる、と言われるなら、そんな場合ですか、と言いたい、みんな避難が間に合わず、30万人が亡くなるかも知れない恐ろしいものが迫っているというのに、全く、どうかしてやしませんか。
これを、南海トラフ地震巨大津波が直撃するのが分かっていても、平野部しかない東海他の諸都市、高台に移転したくてもできない市街地に、建て替え需要の生じたビルから導入してゆく。これは最低これくらいは、という1例に過ぎませんが、自治体が個人でビルを構えるのは無理なことに配慮して、こうした市街地に津波に耐える公共住宅を作るのも安心を誘う。
丁度1年前(12月30日)ですが、日経新聞に、災害時はマンション「籠城」という記事が載りました。どういうことかと言うと、マンションタイプの都営住宅で地震が来ても自宅にいて、その後も自宅で「避難生活」をつづける、というものでした。高齢者など、災害弱者も多ければ、この方が心身への負担が少ない、という点も考慮されてのこととか。耐震性能のあるビルだからのこと、仮に津波に耐えるビルなら、同様に津波襲来時にも部屋にいて、その後、自宅避難を続ければ良いとなります。逃げそこなって、津波に呑みこまれる人も出なくなります。
もう察しはつかれたのではと思われますが、ここで登場していただきたいお役所があります。ロボ向けAIのテコ入れに経産省が乗り出すなら、津波被害根絶に向けて防浪建築の普及に国交省が乗り出す。あちらが1兆円なら、こちらも1兆円。3月の内閣府の発表により、影のうすくなったかっこうの三陸沿岸部の防潮堤――首相夫人の反対にも強行され、1兆円かかったものですが、もうそのことは、言いますまい、これからです。耐浪ビル普及に1兆円(とりあえず)かけて、災害大国日本というレッテルを、今の深刻極まりない被害予想を覆そうではありませんか。先ずは耐震基準に倣い、耐浪基準を設けて道筋をつけると共に、建築の奨励、普及に弾みがつくよう補助金を手厚く支給してゆく。贅沢品である車にさえ、購入価格からして多額の補助金が出されていることを思い起こしていただきたいのです。
住んで安心な明日を、政府・自治体も地震に伴う津波がきて、作業服に着替えて対策本部に詰め、不眠不休で生存者救出に向かう。避難所・仮設住宅整備を急ぎ、膨大な瓦礫処理に追われる……。もうそんなこともない明日を目指すことこそが、いま1番にやるべきことと、思われませんでしょうか。

ことしのWシリーズを見ても分るように、多少は攻撃力に差はあっても、最後は投手力、守りの力が決める。先端産業の勝ちだけを誇りにしても、国は持ちません。攻めと守り、どちらもなくては、世界生き残り戦に勝てるわけはないのです。
