”逃げる”に逃げるな! その2

        *引用のイタリック体を含め、太字はすべて筆者によるものです。

内閣府が出している「南海トラフ地震対策」によると、人的被害は、最悪の場合、32万3千人に達するという。その中、津波による死者が一番多く、23万人。東日本大震災の全体の死者、行方不明者の数が、2万人弱ですから、いかにすさまじい規模の津波が広範囲に押し寄せるものかと驚かされます。

これに対し、この災厄を恐れねばならぬ当の自治体はどういう構えを取っているのでしょうか。

和歌山県

2つの地震(東海・東南海・南海3連動地震及び南海トラフ巨大地震のこと――筆者註)による津波から住民の命を救い、死者をゼロとするため、新たな「津波から「逃げ切る!」支援対策プログラム」を策定し、津波到達までに安全な場所まで避難が困難な地域(津波避難困難地域)の解消を目指し、対策を取りまとめました。

高知県  ともに立ち向かうために!!

その1「事前の備えが大切。貴方の命を守るのはあなた自身!

その2「思い込みは禁物。想定にとらわれるな!」

その3「取り組みにむだはない。できることから実行を!」

 どこの自治体でも例外なく住民が迅速に避難して助かることを目指して対策の策定に励み、体制強化に力を入れているのが分ります。これ迄がこれ迄、災害というと避難を急ぐのを当然としてきているだけに、これを疑問に思う人は稀でしょうが、フト立ち止まって考えてみると、何だか住民の側ばかりに下駄をあずけられているような感じもしないではない。

 ただ自治体の方でも、「貴方の命を守るのはあなた自身!」と住民に重荷を負わせるばかりかというと、そうでもなく、「静岡方式」という、卓越した独自性を窺わせる看板を掲げている静岡県を例にとると、海岸・河川の施設整備、道路などの嵩上げ、タワー等の避難施設の整備と、見事に幅広く定番のものを取り揃えて臨んでいるのが見て取れます。

 それならそっちでもっと効果があるようにやってくれて、避難などしなくて済むようにしてくれないか、と思ったとしても、バチは当らないでしょう。それだけの税金は納めているのですから。

 ともかく現状、善良な住民はその時は逃げるしかない。大丈夫、出来る、と思っている。がその時になってみると……、どうでしょう、こんな筈ではなかった! にならないでしょうか。

 前回につづいて、避難の際の盲点になることを挙げてみます。

正常化バイアス① 正常化バイアスとは、早く言えば、不精で甘えた考えになり勝ちなこと、もっと言えば、横着な構え、という訳で、誰しも逃れ難い性癖であれば、いざ、という時こそ、遺憾なく現れ出てくる。 

激しい揺れが襲った筈の東日本大震災でも「地震発生直後のビックデータから人々の行動を解析したところ、ある地域では地震直後にほとんど動きがなく、津波を実際に目で目撃してからようやく避難行動に移っており、避難行動に遅れが生じていたことが後の研究から明らかになっています。」 

産経ニュースから

 津波ではありませんが、2014年の御嶽山噴火でも、「亡くなった人の多くが噴火後もすぐに避難することなく火口付近に留まって噴火の様子を撮影していたことがわかっており、中にはスマートフォンを握り締めたまま亡くなっていた人もいたそうです。」(引用はTheoriesから)  

正常化バイアス② これも同様な心理が働いていると思われるのが、立派な防潮堤があるから大丈夫、逃げなくていいと言い張って、亡くなったという事例です。先にも取り上げた田老地区。明治、昭和の二度の壊滅的被害の後、半世紀近くかけて、町全体を囲む「万里の長城」とも言われた長大な防潮堤が作られたのですが、この度の津波はそれを乗り越えて押し寄せたのでした。

NHK「災害列島」から、畠山昌彦撮影

 さすがに不安募り避難を始める人もいる中で、「防潮堤があるから大丈夫」「津波が越えるわけがない」と、亡くなった人は口にしていたという。人工構造物への過剰な期待が命取りになった訳です。今三陸には、「万里の長城」を多少ですが上回る高さの防潮堤があちこちに(田老にも)出来上がっています。    

正常化バイアス③ 三陸にしろどこでも地方ほど車社会で、車に依存した生活をしている。さあ避難、となって一刻も早く逃げたいとなると、走るより楽で速い車に頼りたい心理が働く。1度は、クルマで逃げるのは危険ですよ、渋滞で身動きとれなくなりますよ、という警告は耳にしていたのに、ついつい、いまなら大丈夫とか、ここでは起こらないとかの甘い見通しにすがって強行、しかし別々の道から来ても、みなが押し寄せたのでは高台の手前で二進も三進も行かなくなり、津波にクルマごと呑み込まれてしまう。それよりも手前、建物や塀倒壊、がけ崩れ箇所に阻まれて、焦っている中にという場合だってありうるでしょう。

                      その3につづく。 

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